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南側に設けられた大きな通り土間はフレキシブルに使える便利な場所です。

井上さんがこの古民家を見つけたのは、不動産のサイト上。まさに偶然の出会いでした。最初は軽い気持ちで建物を見に行ったのですが、築170年という長い時間の浸食に耐えた圧倒的な存在感に魅了されました。そのあといくつかの古民家を見ましたが、やはりこの建物のどっしりとした構造は格別。そして少し前まで人が住んでいたため痛みも少なかったのです。
ここで暮らしたいと感じた井上さんは、古民家の再生という道を選びます。そこで、立場の違う3社の家づくり会社に提案をしてもらい、デルタトラスト建築設計室に依頼することに決めました。デルタトラスト建築設計室は、原価公開をはじめ情報公開に積極的に取り組む会社です。その設計力と技術力には定評があります。
こうした古い建物の再生工事は工程が進むなかで予期しないことがいろいろ発覚します。特に柱や土台などの足元が腐っているケースは非常に多いのです。井上さんはその都度、設計者と打ち合わせをしながら、柱の傷んだ部分を撤去して、新しい材を継ぎだしたり(根継ぎといいます)、痛みの激しかった西側の面の壁を全部落として新しく今の工法でつくりなおしたり、費用のことも考えながらひとつひとつ対策を考えたそうです。

キッチンから家の隅々まで目が届く

この家の特徴の1つが、ワンルームに近い、おおらかな間取り。そして南側にとられた大きな通り土間です。「なるべく建物が建ったときの間取りに近づけたい」という夫の将さんの想いが生かされています。当初は2階建てにする予定でしたが、予算調整のために平屋に変更しました。でも階段だけは2階までついていて、その場所は4歳になる娘の桜ちゃんの大好きな遊び場になっています。いずれは2階の床を張って、子どものための個室をつくることを予定しているそうです。

こうした大きな空間に、スタイリッシュなアイランド型のキッチンが置かれます。これは、家族の気配を感じながら家事をしたいという妻の舞さんの考えからです。「小さな子どもが2人もいるので、どこにいても目が届く方が安心できます」(舞さん)。実際、キッチンに立つと、ダイニングやリビングはもちろん、廊下を通じて寝室の様子も伝わってきます。寝室に寝かしつけている1歳の息子の桧くんが目覚めたときもすぐに分かります。「このキッチンの配置は本当にうまくいきました」(舞さん)。この大きな空間の中心はやはりキッチンなのです。

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今のところ2階がないので階段は桜ちゃんの遊び場になっています。

薪ストーブは自然と団らんを生み出す

冬には外気温氷点下10度近くなるこの地で、このおおらかな間取りを可能にしているのが、最新型の薪ストーブです。これが優れもの。薪の使用量は1日あたり2~3束とかなりの省エネタイプ。「暖房能力も高いですよ。薪ストーブと部分的に電気ヒーターを使っていますが、これだけで冬も何とかなりそうです」(将さん)。薪ストーブの効果は暖房だけではありません。鍋を温めたり、お湯を沸かしたり。何より火の周りには自然と人が集まります。薪ストーブは家族団らんを生み出す装置でもあるのです。

薪ストーブがこれだけ威力を発揮しているのは、家の断熱性を上げているからです。屋根と壁に断熱補強を施し、窓にはlow-eタイプのペアガラス入りの樹脂サッシを使っています。こうした建物と設備の工夫で、古民家に暮らしながら、家族全員元気に暮らしています。

こうした開放的な家だと、防犯が気になる人もいるでしょう。その点に関して将さんはこう言います。「このあたりはコミュニティがしっかりしているので、むしろ安全です。モニター付きインターフォンがいらないくらいですから」。近所の方々は縁側から声をかけてくれるので、モニターを見る必要がないのだそうです。「野菜やお漬物などをたくさんいただいて、本当によくしてもらっています」(舞さん)。おおらかな家としっかりしたコミュニティに守られて2人のお子さんはすくすく育ちそうです。

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玄関脇に設けられた小さな手洗い。こうした設備機器はじっくり調べて自分たちで選びました。

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各所に設けられた飾り棚には、将さんや舞さんのセンスを生かした小物が置かれています。

おじゃまします! お宅訪問レポート ワタシ流こそだてライフなお宅訪問

家族のふれあいを生み出す
古民家のおおらかな暮らし

井上さんは、長野県松本市に暮らす4人家族。仕事の関係でこの地に越してきたIターン組です。子どもの将来を考えて、環境のよいところに戸建住宅を建てたいと考えるようになりました。井上さんはもともと「普通ではない家づくりがしたい」と考えていました。そして、さまざまな選択肢のなかから、古民家再生という方法にたどりついたのです。

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キッチンからは家中の様子が見通せます。
子どもの様子が常に目に入るように配慮されています。

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リビングは大きな吹き抜けになっています。開放的な広い空間なので桧くんが歩きまわっても安全です。

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小屋裏はひとまず床を置いてあるだけ。子どもの成長などに合せていずれ2階を設ける予定です。

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薪ストーブの周りには人が集まります。調理をしたりお湯を沸かしたりと大活躍。

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外観は元の用途である旅篭風に整えました。通りに向かって掃出し窓を設けているので、近所の人たちが往来から気軽に声をかけてくれるそうです。

井上邸 DATA

家族構成 夫婦、子ども2人 敷地面積 494.35㎡(149.5坪) 延床面積 145.01㎡
構造・工法 木造軸組工法

■この家を建てた工務店

デルタトラスト建築設計室

長野県松本市中央3-1-8
TEL 0263-38-0610

http://www.deltaengine.co.jp/

長野県松本市で頑張る工務店です。神奈川と東京にも関連会社があります。原価公開をはじめとした情報公開を重視しています。構造や断熱などの知識はピカイチ。省エネで暖かく、散らかりにくく長持ちする家をつくります。お客さんとの関係の深さも特徴の1つです。

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相手のペースでじっくりと話を聞く
岸田さん。ちなみに今でも通訳の
仕事を続けています。

■この工務店の女性スタッフ

岸田 立子(きしだ りつこ)さん

岸田さんはもともと英会話の先生や、通訳者として活躍していました。デルタトラスト建築設計室(以下、デルタ)の立ち上げを手伝ったことからこの世界に入り、気が付けば9年。今ではデルタになくてはならない存在となっています。

デルタの売りは技術力。そしてそれを生かした空間提案力です。その設計力はお客様から高く評価されていますが、お客様との打ち合わせでは話が技術論に傾きがち。そこで岸田さんの出番です。女性目線、母親目線で上手に奥さんの要望や本音を引き出します。たとえばキッチンのこと、インテリアのこと、家事の効率のことなどです。

「素人だから目線が同じなんです」と岸田さんは謙遜します。でも、自分が本当に実現したいことを自分で整理するのは結構大変です。そこで、こうしたプロによる聞き取りと整理がとても大切なのです。ここで本当の意味でコンセンサスがとれていないと、最終的に「悪くないけどなんか違う」ということになりかねません。つまり、岸田さんは、お客様と技術者との言葉を翻訳する役割を担っているのです。

「この仕事は大変だけどやりがいがある」と岸田さんは言います。それは、完成した家を引き渡して何年か経って、その家で普通の幸せな暮らしが営まれていると感じたときに、自分の仕事の価値をしっかりと感じることができるからだそうです。「翻訳係」としての岸田さんの仕事ぶりにますます注目です。

取材日:2012年2月1日

Text:大菅 力/Photo:寺西 勉

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